沖縄・八重山探偵団

今回は、マドンナ（長岡先生）がポイントでしたね、出番はそれほど長くなかったけれど。

マドンナといえば『坊ちゃん』（１９０６年）。『鹿男』の原作が書かれたはずの２００６年からちょうど１００年前。

で、『坊ちゃん』と『鹿男あをによし』との関連は、今回初めてwikiを見たのですが、それによれば、

すでに直木賞選考の時点で井上ひさしが指摘している。

さらには原作本文にも、『坊ちゃん』からの引用があるとのこと。

だから、ぼくの創見でもなんでもありません。それどころか・・・

「マドンナ」と言われれば、ある年齢層以上の大半は『坊ちゃん』を思い浮かべるわけで。


先回、『三四郎』（１９０８年）の主人公のフルネームが小川三四郎だと書きました。

ただ、wikiの「鹿男あをによし」の項目によれば、原作（ノベル）には鹿男の名前がないとのこと。

となると、原作にある漱石『坊ちゃん』の引用をふまえて、ドラマ制作者がそこに漱石風の味付けをしたと考えられます。

漱石の作品の中でも、東京から地方へ流浪する主人公といえば、坊ちゃんをおいてほかにはない。

かくて、三四郎と坊ちゃんを奇妙にミックスした物語構造が形作られることになります。


たとえば、坊ちゃんでいえば、校長が「狸」。これは、狐や鼠や鹿といった人獣混交と重なってくる。

そして、教頭が「赤シャツ」。

『鹿男』の教頭であるリチャードが、なぜピンクのシャツを着ているか、その答えがここにあると思います。

（リチャード・ギアと赤やピンクのシャツは、シャレ者ということ以上に結びつきません）

そして、孤立する坊ちゃん（第８話が、まさに孤立する小川先生の物語でした）と友情を結ぶ数学教師・山嵐の本姓が堀田！

当初、互いに反発を抱いていた坊ちゃんと山嵐（堀田）が、しだいに打ち解けて行く様子も、

小川先生と堀田イトに、そのままあてはまると思いませんか？

そして、教頭の赤シャツと野だいこが策略をめぐらして坊ちゃんに山嵐への反感を植えつけるところなども、

まさにリチャードの策略にはめられる小川先生を見ているようです。

そのような意味で、とりわけ今回（第８話）は、『坊ちゃん』テイスト、漱石テイストが色濃かったですね。

ま、そもそも、「学校の中」を、教師の人間関係を中心に描いた作品ですし。


『坊ちゃん』では教頭のたいこ持ちである美術教師（野だいこ）が、

『鹿男』では、美術教師・福原先生（重さん）に変奏されている。

なぜ、重さんが落語好きなのか？それはまさに落語家が野だいこだからではないでしょうか。

ここ（第８話）までは教頭からも（誰からも）距離をとっている重さんが、

残りの２話でどう変貌・転回するかは、まだ予断を許しませんけれども。


マドンナに振られるのは『坊ちゃん』では英語教師の「うらなり」。

『鹿男』では体育教師の南場なのは、大和杯争奪戦の設定上仕方がなかったでしょう。


小川先生は、『坊ちゃん』のように積極性に富んではおらず（むしろ消極性に富んでおり＾＾）、

『坊ちゃん』のように男の友情を貫くよりは（『鹿男』原作はそれに近かったようですが・・・）、

むしろ、女性の「力」を借りながら、謎の核心へと近づいてゆく。


一方、大学１年生の小川三四郎は熊本から東京に出て、いわば青春放浪をするわけですが、

鹿男・小川先生は、東京から奈良に追われるという逆ベクトルを描いて放浪する・・・

そのような意味では、『三四郎』以上に『源氏物語』以来の貴種流離の話型を踏襲しています。

（もちろん、『坊ちゃん』も、その話型の流れをくんで成立しています）

ただし『鹿男あをによし』という物語は、都を、奈良（を一頂点とする三角形）に幻視し続けることで、

日本（倭）の中心はどこなのか？と、わたしたちに問いかけてもいます。

ここにこそ、「奈良」の枕詞である「あをによし」が効いてくるわけで。

（逆にいえば、「あをによし」で切って「奈良」を記さない謎解きにもつながるわけで）


ぼくは、三角の正体を三角縁神獣鏡であるとともに（それ以上に）、

あえて古代以来の奈良（ヤマト）を囲繞し続けた「三角」に求めたいと思います。

おそらくこれは、第９話・第１０最終話の範囲では描かれないかもしれません。

その大きな「三角」は、鏡のようにどこかに隠せるものではありませんから。

しかし、『鹿男あをによし』原作者である万城目学の意識の底に、

その「三角」は、きっとあったはずだと考えています。

奈良・京都・大阪を結ぶ、ある意味便宜的な三角形ではなく、

それこそは、三角関係の原型としても描かれた「三角」ですから。


とりあえず、「サンカク（目）探し」も三角うーんムニャムニャではなく（汗）三角縁神獣鏡で一段落したことだし、

サンカクが三角縁神獣鏡であれば、それを隠しているネズミの運び番は、

すなわち考古学の研究者でもある教頭（リチャード）しかいないわけで。

ここまでは、わりとすんなり２週間前にわかっていました（だから、今さら言うなって！？＾＾

わからないのは、その先。ま、それは、ネタバレに注意しながら、ぼちぼち考えて書きます。


では、なぜ、堀田イトが「イト」なのか？

これは、おそらく第１０最終話に描かれる「儀式」のネタバレになってしまうので・・・

でも、「ネタバレ注意」で書いてしまおうかなぁ（＾－＾＞




【つけたし】

お！「鹿男」、視聴率１０％台回復しましたね。

とりあえず、次はもうひとつ上を目指しましょ！（｀－´ｂ

もちろん、視聴率２０％台ですけど何か？（＾○＾））


【付記】

「堀田」へのアプローチは、「渡る世間は愚痴ばかり」のikasama4さんが、別の切り口からなさっています。

当該部分を引用させていただきます。

「佐倉」はかつて千葉県は佐倉市にあった佐倉藩であり
その城となる佐倉城は通称・「鹿島城」と呼ばれていたそうで。
そして幕末で佐倉藩の藩主だったのが「堀田」家という訳で。

つまり、剣道部主将の佐倉雅代から「佐倉」を導き、

佐倉城の別名「鹿島城」で鹿島とつなぎ、

佐倉藩藩主の「堀田」氏を導くという手堅い考証です。

むろん、どちらが正しいということではなく、参照すべき考え方として掲げておきます。

第１話のみならず、「渡る世間は愚痴ばかり」の緻密な考証、必見です！